週刊ボカフロ

ボカロ、音声合成ソフトとそのキャラクターに関するニュースをまとめるブログです。

週刊ボカフロ増刊号:2020年のボカロ関連ニュースを振り返る

2020年が終わり、2021年になりました。この記事では、一週間のボカロ関連ニュースを毎週まとめている週刊ボカフロの視点で、2020年のボカロや音声合成キャラクターの話題を振り返りたいと思います。

昨年は1年間のボカロ関連ニュースから重要なものを10個選び、ボカロ10大ニュースとして振り返りました。しかし2020年は、新型コロナウイルスによる影響、新しい音声合成ソフトの相次ぐ発表、AI歌声合成ソフトのリリースなど、ニュースが盛り沢山で10個では足りません。そこで12個のトピックに分類して振り返る事にしました。

皆さんにとって、2020年はどんな一年だったでしょうか?

2020年のボカロ関連ニュースを振り返りながら、こんな事があったなとか、これは楽しかったとか、思い返して楽しんで頂ければと思います。

それでは、それぞれのトピックごとに2020年を振り返っていきます。

1. 新型コロナウイルスの影響:イベントやライブが延期/中止、オンライン開催やVRイベントなどに取り組む動き

2020年、世界に最も影響を与えた事件が、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大でした。その影響により、2020年3月頃から、ボカロ関連のイベントやライブ、同人即売会などが、相次いで中止や延期を余儀なくされました。

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世の中へのインパクトも大きいところでは、初音ミクが出演予定であった米国野外音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル 2020」や、桜ミクが応援キャラクターを務める弘前さくらまつりも中止となりました。

 

そんな中でも、オンラインイベント開催(ニコニコネット超会議等)や無観客ライブ配信(初音ミクDIGITAL STARS超歌舞伎GUMI等)、オンライン即売イベント(ズマケV2VEofV4等)など、オンラインでのイベントやライブが行われました。ボカロに関係するアーティストの無観客ライブ配信も増えました。

バーチャルなキャラクターであるボカロの利点を活かした、VR空間でのボカロライブ配信(VOCALOID Fes洛天依MIKUEC)や、実写とボカロを合成したARライブ配信(初音ミク洛天依)もありました。HMDやスマフォVRを使った、VR空間でのイベント(MIKU LAND GATE)やライブ(初音ミクGALAXY LIVE)を開催する動きもありました。

 

 感染拡大が落ち着いた時期には、ソーシャルディスタンス確保や発声禁止、消毒励行などの対策を行ってのライブコンサート(ミクシンフォニー)やイベント(マジカルミライ)も開催されました。

 

2022年も新型コロナウイルスの感染脅威は続きそうですので、このような状況でもイベントやライブを開催するための取り組みは、しばらく続きそうです。

 

2. コロナ対策を支援するボカロ:感染予防啓発やSTAY HOME支援、コロナ対策サポーター

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、感染予防の啓発にボカロやそのキャラクターを活用する動きもありました。

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ボカロ活用の象徴的なニュースとして、初音ミクがコロナ対策サポーターに就任するニュースもありました。

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 また、外出自粛で自宅で過ごす「STAY HOME」支援のため、コンテンツ(IA&ONE)やグッズ(初音ミク)を提供する動きもありました。学校教員のオンライン授業制作を支援するために音声合成ソフトを無償提供する動きもありました(CeVIO)。

新型コロナウイルスの感染脅威が続く中、コロナ対策にボカロを活用する動きは、2022年も続きそうです。

 

3. NEUTRINOリリース:AI歌声合成ソフトの無償公開と「たべるんごのうた」ブーム

さて、音声合成ソフトに話題を移します。2020年は、新しい音声合成ソフトの話題が続いた一年でもありました。その先頭を切ったのは、2020年2月にリリースされた歌声合成ソフトNEUTRINOです。NEUTRINOは、ニューラルネットワークを用いたAI歌声合成ソフトで、無償で公開されました。

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これにより、AI歌声合成が一般の人でも扱えるようになりました。AI歌声合成は、一部の企業や研究開発者が既に開発・使用できる状態にありましたが、NEUTRINOと東北きりたんの歌声ライブラリ、通称「AIきりたん」が無償で公開されたのをきっかけに、AI歌声合成を使った楽曲がネットに多く投稿されるようになりました。その象徴的な事象が、「たべるんごのうた」のブームでした。

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この動きに、東北きりたんを企画運営している東北ずん子公式も素早く反応しました。AIきりたんを商用や同人で扱うための仕組みを整備し、東北イタコの歌声ライブラリ追加のための活動も行いました。

NEUTRINOはその後も開発を続け、新しい歌声ライブラリ「めろう」追加や機能追加・改善を続けています。

NEUTRINO公開後、Synthesizer V AI や CeVIO AI といった商用のAI歌声合成ソフトが発表されましたが、無償のAI歌唱ソフトウェアとしてお手軽に試すことができ、独自の歌声ライブラリを持つNEUTRINOは、今後も使われ続け、歌声合成界隈に影響を与えると思われます。

 

4. Synthesizer VがAHSよりリリース:琴葉茜・葵などの歌声DBが増え、AI歌唱にも対応

2020年、話題に上がる事が増えた歌声合成ソフトが Dreamtonics社の「Synthesizer V」 です。2020年7月にAHS社から販売することが始まって以来、歌声DBを増やし、AI歌声合成にもいち早く12月に対応しました。

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AHSから販売する前より、エレノア・フォルテ、ゲンブ、AIKOなどの歌声DBを提供していましたが、2020年に新しい歌声DBをいくつも発表しています。

Synthesizer V は個人向け歌声合成ソフト製品として、VOCALOID、CeVIOに続く第三の勢力として成長しており、今後の動きに注目です。

 

5. CeVIO AI発表:結月ゆかり・flower・IA・ONE・可不・東北きりたんなどのソング/トークがリリース予定

CeVIOを開発しているテクノスピーチ社は、2018年にAI歌声合成技術を発表しており、CeVIOのAI対応が待たれていましたが、ついに2020年7月、「CeVIO AI」を発表しました。さらに、VOCALOIDの歌声DBが既に販売されている結月ゆかりとflowerが、CeVIO AI のソングボイスとしてリリース予定というサプライズも合わせて発表されました。

バーチャルシンガー花譜さんの歌声を元にした「可不」の制作発表も、そのボイスをどうするかアンケートを募った事も含め、話題になりました。

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CeVIO AI は、2021年頭から相次いで発売予定となっています。CeVIO AI は、歌唱用のソングボイスと読み上げ用のトークボイスがあり、キャラクターによってどちらか、または両方が提供されます。

現時点で発表されているソングボイスとトークボイスは下記の通り。2021年は CeVIO AI 製品の発売ラッシュとなりそうです。

なお、CeVIO AIはサードパーティー製品から発売とアナウンスされており、CeVIO ProjectのさとうささらなどのCeVIO AI 製品については、発売時期など詳細は未発表です。

 

6. 初音ミクNTリリース:ボイスライブラリー1種からの静かなスタート

NEUTRINO、Synthesizer V、CeVIO AIと並んで、2020年に話題となった新しい歌声合成ソフトとして「初音ミクNT」があります。

VOCALOIDの代表的な歌声DBである初音ミクが、VOCALOIDとは異なるクリプトン独自開発の歌声合成エンジンでリリースされるとして、発表当初は「初音ミクNT」が話題となりました。当初は8月31日発売を目指していましたが、発売が11月27日に遅れ、ボイスライブラリー3種のうち1種「Original+」のみのリリースとなりました。

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この記事を執筆している1月9日現在、発売から約1ヶ月と少し経過した時点で、ニコニコ動画で「初音ミクNT」タグの付いた動画は459件、10万再生を超えた動画がまだありません。初音ミクNTを使った作品の投稿は一定数あるものの、落ち着いた静かな状況です。

初音ミクNTは、開発元のクリプトン社が全てのソフトウェアおよび歌声合成を自由にコントロールできるようになったという意義があります。その真価を発揮するのは、もう少し後になるのかもしれません。

 

7. トークソフトの動向:A.I.VOICE発表、VOICEROID2 伊織弓鶴・音街ウナ発売、CeVIO AI 弦巻マキ発表

2020年のトークソフトに目を移すと、大きな話題としては、VOICEROIDなどに使われている音声合成エンジンAITalkを開発しているエーアイが、新しい個人向け音声合成ソフト「A.I.VOICE」を立ち上げた事があります。エーアイのキャラクターである琴葉茜・葵と伊織弓鶴の A.I.VOICE製品を2021年2月に発売予定と発表されました。

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一方、個人向け音声合成ソフトとして代表的なAHSのVOICEROIDからの新製品として、伊織弓鶴音街ウナが発売されました。

そんななか、AHSのVOICEROIDキャラクターとして知られている弦巻マキの新しいトークソフトが、VOICEROIDでは無く CeVIO AI で発売されると発表されました。声優の交代も含め、VOICEROIDユーザーにとってインパクトのあるニュースでした。

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これに関してAHSの尾形代表は、DTMステーションのインタビューにて、いろいろな事情から新しいVOICEROID製品の企画が進められない状況であると答えています。

トークソフトはVOICEROIDとCeVIOに、新しく発表されたA.I.VOICEも加わり、今後の勢力図に変化が起きそうです。 

 

8. 歌声合成ソフト制作を目指すクラウドファンディング:小春六花、東北イタコ、ついなちゃん、京町セイカ

2020年は、歌声合成ソフト制作を目指すクラウドファンディングがいくつかありました。これまでも、クラウドファンディングでVOICEROID制作などの動きはありましたが、2020年は歌声合成ソフト制作、特にSynthesizer Vの歌声DB制作の動きが目立ちました。

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歌声合成ソフト以外にも、ライブイベント開催(MIKU EXPO琴葉茜・葵)や等身大立像制作(MEIKO・KAITO)の資金を集めるクラウドファンディングが行われています。製品開発や企画のための資金を集める手段として、クラウドファンディングが一般的になってきたように感じます。

 

9. プロジェクトセカイがリリース:初音ミクたちと人間たちが一緒に歌うリズムゲーム

スマフォ向けリズムゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」がリ2020年9月にリリースされました。2020年11月にはユーザー数が250万人を超え、楽曲追加やイベント開催の告知があると、その楽曲名や関係するキャラクター名がTwitterのトレンドに上がるのも珍しくない状況になっています。

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ボカロのリズムゲームとして「Project DIVA」シリーズがあり、初音ミクたちが歌うボカロの入口として影響力が大きかったのですが、プロジェクトセカイもそのようなゲームになりそうです。

Project DIVAとの大きな違いは、初音ミクたち以外に、声優が演じるオリジナルキャラクターが登場し、初音ミクたちと一緒に歌う音源や映像があることです。ボカロと人間が一緒に歌う音源がこれだけ多く提供されるのは今までに無く、このゲームのプレイヤーにとって、ボカロと人間が一緒に歌うのは当たり前という感覚になるかもしれません。

みきとPと鏡音リンが一緒に歌う「ロキ」の大ヒットや、初音ミクと一緒に歌う楽曲やライブを行うピノキオピーに代表されるように、ボカロと人間が一緒に歌うのは珍しくない状況になりつつあります。プロジェクトセカイによって、それがさらに加速するかもしれません。

 

10. ボカロファンが集まる場が増える:Kiite Cafe、ボカコレ、ラジオ番組

ボカロのユーザーやファンが集まる場として、ネット上のSNSや動画投稿サイト、オフラインのイベントがあります。2020年には、オンラインでボカロ曲を他のユーザーと一緒に聞けるサービス「Kiite Cafe」と、ニコニコのボカロイベント「ボカコレ」が新しく加わりました。

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また、ネット以前からのメディアであるラジオ番組には、視聴者からメッセージや楽曲リクエストを受け付ける参加型の側面があり、集まる場として機能することがあります。そんなボカロのユーザーやファン向けのラジオ番組として、「たかぴぃのクリエイターズ ミッドナイト」や「RADIO MIKU」(こちらは2021年1月1日開始ですが)が始まっており、こちらも注目したい動きです。

 

11. 初音ミクが応援・広報・宣伝を務める:コロナ対策サポーター、CBSラジオ70周年、ESPエンドースメント契約など

キャラクターとしても人気のある初音ミクのコラボレーション企画は、2020年も多数ありました。その中でも目立ったものとして、応援キャラクターやアンバサダーなど、初音ミクが応援や広報、宣伝する役割を務める企画がいくつかありました。

週刊ボカフロで取り上げたものとしては、下記があります。

珍しいものとしては、ギターメーカーESPとのエンドースメント契約があります。通常は人間のギタリストと結ぶ契約です。アーティストや著名人など人間が担う役割を、歌声合成ソフトでありキャラクターである初音ミクが担う形になっており、興味深いニュースでした。

 

12. アニバーサリー企画ピックアップ:MEIKO15周年、GUMI10周年、ミクシンフォニー5周年、音街ウナ4周年

アニバーサリーを迎えたボカロや企画に関するニュースをピックアップで紹介します。

初音ミクのイベント「マジカルミライ」にて、MEIKO15周年を記念した等身大立像やパネルなどを展示するMEIKO展が開催され、ライブではMEIKO15周年記念ソングなどをMEIKOが歌いました。

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また、GUMI10周年を記念したライブが開催されました。久し振りのGUMI公式ライブ開催となり、ボカロPや音街ウナとの共演もありました。

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初音ミク楽曲をオーケストラ演奏する「初音ミクシンフォニー」が5周年を迎え、これを記念して、日本のクラシック音楽を牽引するホールの1つ、サントリーホールで公演が行われました。

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4周年を迎えた音街ウナは、天浜線の音街ウナラッピング列車「うなぴっぴごー!」に4周年記念ヘッドマークを付けて走りました。

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後書き

以上、2020年のボカロ関連ニュースを振り返りました。コロナ渦、新しい音声合成ソフト、AI歌声合成、様々なボカロ関連企画など、2020年も様々なニュースがありました。皆さんはどのニュースが印象に残ったでしょうか。

 

週刊ボカフロ運営者の私としては、コロナ渦の中でもボカロ関連のイベントやライブ、企画が続いたことが一番印象に残っています。おかげで、週刊ボカフロで取り上げるニュースは毎週尽きることがありませんでした。困難な状況でも続けようとする関係者の皆さんの尽力には頭が上がりません。

2021年もしばらくはコロナ渦で厳しい状況が続くとは思いますが、続けようとする関係者の皆さんを応援していきたいです。

また、2020年でもう1つ印象に残ったのは、新しい音声合成ソフトの活発な動きです。AI歌唱など新しい製品が登場したり、あるキャラクターの音声合成ソフトが今までと異なるプラットフォームで発売が決まったりと、活発と言うより混沌とした状況になりつつあります。特に、Synthesizer V、CeVIO AI、A.I.VOICEの新製品発売の動きは2021年も続き、新しい動きもありそうです。しばらくは混沌とした状況が続きそうです。

 

2021年も色々とニュースの多い一年になりそうですが、音声合成ソフトやそのキャラクターたちの関係者、ユーザーやファンにとって、良い2021年になることを願っています。

 

P.S.

ニーズあるか分からないのですが、2020年の週刊ボカフロのニュース記事一覧を、Googleスプレッドシートを無償で公開しました。自由に利用して頂いて構いませんが、なにか文章などで利用して公開した場合には、一言連絡頂けると嬉しいです。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1jTaiPnKP-OPPU76HTnVHu0sTyGG5P8BdjrrWo1slnPE/edit?usp=sharing